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谷々の魅力を語る

 アルピニストのおちばや氏の語る所によると、U字谷にもV字谷にもそれぞれの良さがある。
 高地や寒地に多いU字谷は、地形学的には水の浸食を受けていないいう意味で若く、その気候条件により表面には余分なものが生えていない。このような若々しさを感じさせる魅力に加えて、谷間からの眺望の良さと、それにも関わらずスリル満点の崖が多い事も魅力にあげられよう。その一方で始めから高峰の全貌が露になる弱点がある。世阿弥の云っているように、隠す事による神秘というのがこの谷には足りない。頂は苦労の挙げ句に見えて来る方が地形的に奥ゆかしい。
 一方のV字谷は、展望も悪ければ障害物も多く、たとい頂上にたどり着いても、それを実感させる眺望も自然な状態では期待出来ない。しかも、その急峻な頂すら、歳老いて萎れかかっていると解釈する事も出来る為、一般にはU字谷に比べて魅力に乏しいと思われがちである。
 しかるに、現実を見ると、登山客はV字谷の方が圧倒的に多い。これは、V字谷には地形以外の喜びが多い事に起因すると思われる。即ち年を経た山ほど多くの神秘が隠されていて、人はその神秘に引きつけられる。しかも、U字谷の魅力と謳われる頂からの眺望、或いは谷からの眺望というのは、実際には登山を知らない者が想像する程には重要ではない。というのも、そもそもU字であれV字であれ、頂を征服する達成感が第一義であって、征服中の高揚時に於いては、その全貌がどうであってもマトモな大人なら気にしない筈だからだ。
 さて、此処で問題になる地形以外の楽しみであるが、日本人なら先ず四季の移り変わりと味覚を挙げるだろう。これが、V字谷をしてU字谷よりも人々を魅惑するものの第一である。
 春の新緑や夏の深緑は云うまでもなく、その合間に見受けられる花や山菜の全てが山に住む動物の審美的興奮と本能を促す。それは人間とて例外ではなく、デートの格好の行き先として美術館に並んで現に利用されている。そして、そのような目的にV字谷を使用する事は、極めて由緒正しい行為であって、例えばメーデーと云えば元々は野山で男女が出会う日であったという。そこに緑の本質を深く感じさせる訳だが、これをU字谷で望む事は不可能だろう。
 V字谷の植物の美しさはその緑だけでなく、芳香にもある。万葉の昔から愛でられている植物の香りのホルモン効果については、しかしながら、それを魅力的とするべきが幻滅的とするべきかで意見が分かれておいる。臭いに対しておおらかだった昔の人は、V字谷の芳香を心地よいとのみ感じていたに違いないが、アレルギー源の過敏な現代オタクには次第に敬遠されつつあるとの説もある。

 さて谷といえば遭難の危険に付いても述べなければならないが、これは乳製油脂犬氏の得意とする話のようなので、引き続き彼に話を続けてもらおうと思う。
 ……えっ? あ、そうなの! 乳製油脂犬さんは、谷漁りの最中に遭難されて執筆休止中ですか。お大事に&歳なんだから無理をしないように、とお伝え下さい……

 アルピニストのおちばや氏によると、U字谷とV字谷とでは遭難のタイプも遭難者のタイプも全く違うそうだ。V字谷に於いては、良く云われているように、遭難は頂よりも谷間で、遭難者は中級ベテランよりも未熟者が多いが、U字谷に於いては、遭難は谷間より頂で、遭難者は未熟者よりも中級ベテランが多く、両者に共通なのは登山中よりも下山中に多いという点のみである。従って、V字谷での常識をU字谷に当てはめではいけない。両者の遭難の特徴については、次のような説明が為されている。
 先ずV字谷であるが、歳経た谷では、谷の深淵さ並びに緑深さの魅力が、山頂制覇で疲れきった未熟者の判断を誤らせて、路を踏み間違えさせる事により、初心者を遭難させると云われている。緑に支配された谷は、一旦ハマってしまうと、体力が尽きるまで同じ谷を堂々巡りするばかりとなって、その谷から一生逃れなくなる、というか、その谷で果ててしまうのである。また、統計には現れにくいが、谷の持つ魅力にハマって、下山の時刻を忘れるというタイプの、遭難未遂となると数あまたある。ただし、この種の遭難は、大抵は表沙汰にならない。というのも、谷の方が魔男を飼っているという汚名を嫌うからであり、不思議なぐらいに色々な形で救出される。一方、ドラマチックな遭難、即ち、体力もないのに深い谷山に挑戦して、転落などの事故遭難を起こす例は、皆無では無いものの、統計的にはそこまで多くない。
 ベテランでもV字谷に遭難する事が時々ある。否、これは遭難というより、取り憑かれたと云った方が良いのかも知れない。というのも、ベテラン程、難しい樹海に挑戦したがるからである。気付いたら、人生が緑に染まっていたという事も多く、それ自体は遭難とは云えないが、『娘さんよく聞けよ」という山男の歌がその機微を語っているように、一旦緑の自然の味を覚えると都会生活というか常識的な生活に戻れなくなる可能性があるので、特にこのサイトの訪問者は気をつけなければならない。例えばこの文章を読んで、別の意味での谷間を想像する方々は遭難予備軍である事を自覚するべきであろう。
 次にU字谷だが、谷間の平坦さ故に、簡単に登れるように見えるものの、その実、実際の頂までの距離は、同じ視覚距離のV字谷に比べて遥かに遠い。しかも、その地理的分布と植生により、強烈なUVを浴び易く、それが疲労を更に増加させるから、遭難の危険度は一般に高い。それゆえ、つい近年まで、処女峰の殆どがU字谷に存在していたし、今でも、これらU字谷の山々は神聖ニシテ犯スベラカズと考えられがちである。こういった困難並びに信仰がU字谷の初心者の挑戦者並びにそれに伴う遭難数を少なくしている。しかしながら、この難しさ、その若々しさ故に、若さを求める中年ベテランが己を見失って遭難する率が高い。それまで理性的な征服を続けて来たベテランが、突然、バランスを崩して、転落したり過労死したりするのである。
 これら物理的遭難以外に伝説的遭難の存在も忘れてはいけない。即ち、V字谷に於ける雪女との遭遇可能性と、U字谷に於ける雪男との遭遇可能性である。同じ遭難でも凍死という快楽死と餌食という苦痛死では雲泥の差がある訳だが、この手の話は緑の大御所に任せたいと思う。

 なお、アルピニストのおちばや氏によると、遭難の危険を過大視して谷や頂への挑戦を怠る事こそ、人生最大の遭難であって、それに比べれば緑の遭難の方が遥かに地球的生き方に即しているとの事である。
 若者よ、中年予備軍よ、緑の谷間へいざ行かん!

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  1. 2007/06/26(火) 22:44:09|
  2. おち葉たあの黄色
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編集人

Author:茶林小一
 バカSFからバカSMまでをモットーに、火星人や大和撫子などの絶滅危惧種を保護するため世界緑化運動を推進しています。応援よろしくお願いします。

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