緑乃帝國 緑のオンライン文芸誌

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乳ゆれ峠

 祖父が遺した広大な山林には秘密の場所がある。
 街に面した側から裏側に回り込む形で、峠道がある。車で山に入ることができる唯一のルートだ。道は三キロほどで途切れていて、その先は手入れされていない木々の群れが侵入を拒んでいる。
 だがそれらを掻き分けて登った先に、移動手段が徒歩しかない時代につくられたと思われる、街道の名残が見つかる。
 今日も私は旧道へ来た。地面に通り道の名残を留めるだけのそれは、伸びた枝葉が緑のトンネルを形づくり、空を覆い隠している。
 私はゆっくりとトンネルを歩む。左右から、私を驚かせるかのように、珍妙な植物の実が飛び出してくる。それらはどれも、女の乳房のような形をしている。
 私はメジャーを取り出し、アンダーとトップを測る。そしてその数値を、ノートに記入していく。
 さらに先へ進むと、もう一回り大きなものが飛び出してくる。それらは先ほどのような胴体部分だけではなく、きちんと手足がつき、まるっきり人間のように見える。彼女たちには、幹から伸びた蔦が全身に絡まっている。それは熟練の緊縛師の手によって縄化粧された女の姿に見えた。
 私は計測する。ここまで生長した彼女たちは、どれもその名に違わぬ、薬缶のごとき二つの膨らみを自慢げに揺らしている。
 私が作業に没頭していると、目の前に、新たな一体が飛び出してきた。私は驚いて道具を取り落とした。
 彼女には顔がついていた。絡んだ蔦が豊満な肉体に食い込んでいる。運悪く発見されず、収穫時期を逃すと、熟しすぎてこのような状態になる。
 お願いです。もう、堪忍してください。
 熱い吐息と共に彼女が言う。私はナイフを手にし、繋がった足の裏と枝の間に刃を入れる。彼女が喜悦の声を漏らす。縄を解かれた彼女が、地に落ちてきた。
 行くかい、と問うと、どこへでも参ります、という。この先どのような生活が待っているかは、わかっているはずだ。だがそれさえ、彼女は己の喜悦に変えるのであろう。
 軍手を二重ねにした手で、彼女の手を握る。彼女は嬉しそうに、そして恥ずかしそうについてくる。私たちはふたりで、峠道をゆく。
 言い伝えでは、彼女たちに触れたものは病を受けるという。彼女を買った者たちがどういう末路を辿るのか。私は知らない。

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  1. 2011/08/18(木) 22:20:15|
  2. 団鬼緑
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編集人

Author:茶林小一
 バカSFからバカSMまでをモットーに、火星人や大和撫子などの絶滅危惧種を保護するため世界緑化運動を推進しています。応援よろしくお願いします。

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